トータルヘルスデザイン公式サイト

バンクシアの響き

時代が急展開している今、
人間社会の新旧交代にまつわる出来事の本質をトータルヘルスデザイン 近藤洋一が考察します。

コミュニティへの道(2)

人類の歴史を振り返ってみますと、狩猟社会から農耕社会、そして工業社会を経て情報化社会へと進化し現在に至っていることに気づかされます。
そしていま私たちは高度情報化社会を生きているということにつきまして、前月号で述べさせていただきました。
  スマホなどの情報機器を操作することによって、居ながらにして世界各地の情報を手にすることができるというのですから、その進歩には眼をみはるばかりです。しかし気になることがあります。そこに流れる情報は、五感を通して伝わってくる「ナマの情報」ではなく、「加工された情報」であるということです。
 そんな社会の背景には、約96兆円の国家予算に対して国民医療費が約40兆円であるという現実があります。そして2025年には、約800万人の団塊の世代の人たちが後期高齢者に突入すると言われています。そして高齢者の比率が30%に達し、、認知症を患う人が700万人に達すると予測されています。
 難病のはびこる現代社会ですが、求められているのは“心身一如”の健康と言ってよいと思います。スマホなど高度な情報機器を通して得られる情報は、心身のあり方とどのような関係にあるのか、“心身一如”の健康という観点から、高度情報化社会の抱えている問題について考えてみることにいたします。
 「理性と感情が喧嘩すると理性が負ける」というのが常ですから、理性だけで、このストレス社会を元気に生き抜くことは不可能ではないでしょうか? 感情面で安定した日々を送ることが、元気に生き抜く秘訣といってもよいと思います。
 感情面で安定した毎日を送るためには、五感すなわち視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚そして第六感と呼ばれる直感力を大切にする必要があります。五感の内で、特に人間の理性を超えて働く力が強いのは、「嗅覚」だと言ってよいと思います。何か異変が起こったとき、確固とした根拠もないにもかかわらず「何か匂うな」とか「どうもあいつが臭いな」とか言ったりするのではないでしょうか?
 勘の良い人を「ハナの効く奴だ」と言ったりしますね。
 料理にしても、味わうのは味覚を通じてですが、美味しさを決定づける大きな要素に、香しい料理のにおいがあります。門から入ってしばらく何となくよい香りの漂う路地を歩いている間に、食べる前から「美味しい」という感覚が湧いてくるように設計されている料理屋さんがありますね。
 「味覚」においてもただ舌で味わうというだけではなく、「視覚」と「嗅覚」から生まれる空気感が特に大切にされていることに気づかされます。
 テレビや電話、スマホなどの高度な情報手段を通してでは、「味覚」「触覚」「嗅覚」は決して味わうことのできない感覚です。以下、感情と知覚のメカニズムについて考えてみることにいたします。



脳と生命情報

人間の脳は、爬虫類から哺乳類、そして人間に至る進化の過程を表す三つの異なる部分に分かれていることが知られています。すなわち「脳幹」(爬虫類型の脳)と「大脳旧皮質(原始哺乳類型の脳)」、そして人間になって特に発達した「大脳新皮質」の3層構造になっているのです。
 胎児期の脳もこの進化の流れに沿って、深いところから順に発達し、3層構造となって以下のような人間独自の知性を形成しているとされています。

 【1】「脳幹」:生きていく働き(爬虫類型の脳)心臓の鼓動や血液循環、ホルモンの分泌、呼吸や生殖本能など、生命を維持する中枢的な役割を担っています。
 【2】「大脳旧皮質」:たくましく生きる働き(原始哺乳類型の脳)喜怒哀楽などの感情を生み出す働きをしています。
 【3】「大脳新皮質」:うまく生きる働き(新哺乳類型の脳・右脳と左脳)脳幹と大脳旧皮質に蓄積された情報を受け取り、人間特有の理性や精神、心のあり方を生み出します。

 私たち人間の脳には、はるか過去の爬虫類時代から現在に至るまでの、気の遠くなるような長い時間をかけて蓄積された、あらゆる感情や思考のパターンが記憶されているというわけです。
 うまく生きる働きをする「大脳新皮質」は、右脳と左脳に分かれていて人間独自の機能を発揮していることはつとに知られているところですが、乳児期には、これら二つの独自機能が十分に果たせているわけではありません。
 右脳と左脳が独自の機能を発揮し始めるのは、これら二つの脳をつなぐ「脳梁」が完成する4〜5歳の頃とされています。
 人間は、うまく生きる脳(大脳新皮質)が白紙状態で生まれてくるわけですから、乳幼児の知的発達は私たち大人がつくり出す生活環境に大きく依存しているということになります。
 人間の脳は、このように3層の「知的システム」から構成されているのですが、これは単に進化の名残ではありません。
 すなわち古い二つの脳には、爬虫類時代、哺乳類時代にインプットされた無限の情報が蓄積されているのですから、赤ちゃんを部屋に閉じ込めておくのではなく、どんどん外部世界と接触を持つ機会を与える必要があるということになります。
 動き回ることによって、赤ちゃんの脳に潜在している「知的システム」が働き始め、真の意味で頭の良い子に育つというわけです。

嗅覚

「嗅覚」以外の感覚情報すなわち視覚、聴覚、味覚、触覚は、まず大脳新皮質にインプットされた後、喜怒哀楽といった感情を生み出す大脳旧皮質すなわち「原始哺乳類の脳」に到達するのに対し、「嗅覚」は大脳旧皮質すなわち「原始哺乳類の脳」に直接インプットされることがわかっています。
 「視覚」の場合ですと、情報はまず目からインプットされ、白紙状態の大脳新皮質の視覚野に到達します。そこで過去の記憶と照合してはじめて、それが何であるかが認識できるので「こんなものが見えた」と表現することになります。
 そんな過程を経て感情が生み出されることになります。
 これに対して、「香り」は、遺伝情報満載の大脳旧皮質に直接インプットされるために、「香り」の情報が意識される前に、感情が生み出されることになります。「嗅覚」は、理性を超えて直接、感情に訴えかけるという特性を持っているわけです。
 「これはおばあちゃんの焚いていた線香の香りだ。なつかしいなあ」と人間が認識する以前に、理屈抜きに感情を呼び覚ます性質があるため、気分を高めたり、あるいは気分を和らげたりするのに、即効性があり効果も大きいのだと思われます。
 勘の鋭いことを指して「動物的だね」と評することがありますが、匂いはまさに動物的な感覚を呼び覚ましてくれるということになります。
 ずいぶん前の話になりますが、映画のシーンに香りを使えないかということが話題になったことがありました。場面が変わってもまだその香りが残っているとしたら、ちょっと問題ですね。
 情報機器から発信される機械的な情報もさることながら、「香り」のみならず「味付け」、「肌触り」など、人体の五感が受け取るナマ情報が人間生活に彩りを与え、豊かにしてくれる―高度情報化社会の次にやってくる社会には、生身の人間同士が五感及び第六感を通して楽しく交流する「コミュニティ性」が求められるのではないでしょうか?