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バンクシアの響き

時代が急展開している今、
人間社会の新旧交代にまつわる出来事の本質をトータルヘルスデザイン 近藤洋一が考察します。

1月 忘れられた初期情報

日本人の使命

2012年は京都大学・山中伸弥教授のノーベル生理学・医学賞受賞のニュースで、日本の国全体が、わくわくと湧き上がった一年でした。

私たちの肉体は、一個の受精卵から出発して皮膚や神経などに成熟していくのですが、やがて年老いてその働きも衰えていきます。皮膚や神経などの細胞は増殖したり老化したりすることはあっても、時間に逆行してもとの受精卵にまで引き戻すことはできない、すなわち若返ることはあり得ないというのが常識でした。

ところがです。山中教授の研究によって、マウスの皮膚からとった細胞に4種類の遺伝子を入れて培養すると、受精卵のような働きをもつ万能の細胞ができるという驚くべき結果が得られたのです。若返りどころか受胎の時までさかのぼる、この万能細胞が山中教授のノーベル賞受賞の立役者であるiPS細胞です。

神の領域に直面した現代科学

皮膚という成熟した末端の細胞を出発点の細胞に戻すこと、すなわち【初期化】に成功したというのが山中教授の受賞理由です。誰もがイノチの流れは一方通行と思っていたのではないでしょうか?

「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり・・・・・・」
私たちにはなじみ深い平家物語の一節ですが、日本人の無常観も揺らぎ始めるのかもしれませんね。老化するはずの細胞が、生まれた時のような初期の状態にまで引き戻されて、神経や心臓、肝臓などあらゆる細胞になる能力をもったのです。

たとえてみれば40歳になった中年のおじさんが、もう一度お母さんのお腹の中の受精卵に逆戻りし、新しい人生をやり直すことになったというお話ですね。【初期化】の研究では、十数年前にクローン羊ドーリーの誕生が新聞紙上をにぎわせたことで有名です。

ドーリー誕生のメカニズムは次のとおりです。
(1) 6歳のメス羊の乳腺細胞を飢餓状態にしておきます。
(2) 別のメス羊の未受精卵から細胞核を除去します。
(3) (1)の細胞の核を(2)の細胞に移植します。
(4) 核移植した(3)の細胞を別の代理母の子宮に移しかえるとドーリーが誕生しました。

山中教授と共同受賞した英ケンブリッジ大学のジョン・ガードン教授の研究は、オタマジャクシの体細胞から核を取り出して、核を取り除いたカエルの未受精卵にその核を入れると【初期化】されるというものです。

一方、山中教授の研究は、マウスの皮膚からとった細胞に、たった4種類の遺伝子を入れるだけで、あらゆる細胞に成長する能力をもつ細胞になることを明らかにしたのでした。

核移植をしなくても【初期化】が可能になったのです。

マウスでは、iPS細胞から精子や卵子もできるということが確認されているそうですから、いよいよ「神の領域」がテーマ になる時代を迎えつつあるといってよいのかもしれません。

山中教授の研究によって、脊椎が傷ついたマウスや小型のサルに治療効果があったことが明らかにされています。人の場合は どうなるのか、これからの再生医療の進展が楽しみですね。